前回はスズメバチに刺されないための対策についてご紹介しました。今回は
最近日本にも侵入・定着し、一躍有名になった外来種、ツマアカスズメバチに
ついて解説します。
○●○●○●○ 有毒害虫特集(ツマアカスズメバチ編)○●○●○●○
■何となく黒っぽい
本種は働きバチの体長が2センチ程度、女王バチでも3センチほどで、大きさで
言えばキイロスズメバチに近いです。体色は胸部から腹部の真ん中あたりまでが
黒く、頭とお尻の先がオレンジ色です。そのため、一般にスズメバチと呼ばれて
いるハチにしては妙に黒っぽく、日本の在来スズメバチとは雰囲気が異なります。
■たくさんの亜種が存在
一口にツマアカスズメバチといっても、生息地域により生態的な特徴や外見が
少しずつ異なる亜種が存在し、その数なんと14種にも及びます。これらを全て
ひっくるめると、北は中国、東は台湾、南はインドネシア、西はアフガニスタン
にかけての地域に生息します。そして近年はその中でも中国南部・インド北東部、
ブータンを原産とする亜種Vespa velutira nigrithoraxが多くの国に侵入・定着し、
問題になっています。日本国内へ侵入・定着したものも本亜種であると言われて
います。
■世界各地で拡散中
彼らは日本での侵入・定着が報告される前から様々な国で姿を見せていました。
ヨーロッパでは2004年頃に中国からの輸入品に紛れてフランスへ侵入したとみられ、
2012年にはスペイン、ポルトガル、ベルギー、ドイツでも定着が確認されるなど
驚異的なスピードで拡散しています。アジアでも中国からの侵入と思われるものが
韓国の釜山で記録され、その後も同国の広い地域で観察され続けています。
■日本にも侵入・定着
日本では2012年頃に対馬へ侵入していたとみられ、現在は対馬全域に定着して
います。侵入経路については韓国からの船に運ばれてきたと考えられています。
去る2015年8月28日には、海を隔てた福岡県北九州市でも巣が発見されました。
対馬あるいは韓国を往来する船舶による持ち込みと考えられていますが、詳しい
侵入経路はまだ判明していません。
■何が問題か?
ツマアカスズメバチなど外来種の侵入・定着により起こる問題は様々ですが、
大きく分けると3つに分類されます。一つ目は人の生命・身体に関わる被害です。
二つ目は農林水産業に関わる被害、そして三つ目は生態系に関わる被害です。
それぞれ個別に見てみましょう。
■人の生命・身体に関わる被害
噛みつき、引っかき、刺咬による被害を指し、ツマアカスズメバチの場合は
当然毒針による刺傷被害です。攻撃性や毒性が他のスズメバチに比べて特に強い
ということはありませんが、都市部にも適応しやすいため人との接触機会が多く、
刺傷被害の増加が懸念されます。また、発達した巣は働きバチが多いことに加え、
高所に作られるため駆除が困難です。福岡県で確認された巣は高さ7メートルの
木の枝にあり、韓国ではマンションの外壁に営巣した例も知られています。
ただ、春先は茂みや石垣の中、地中など目立ちにくく閉鎖的な空間に営巣します。
巣の規模が大きくなる夏頃から樹木や軒先などに引っ越しをします。
■農林水産業に関わる被害
ツマアカスズメバチが巣に持ち帰った餌の内訳はミツバチ類が多く、主要な
餌としていることが伺えます。そのため、養蜂業への被害が懸念されています。
事実、韓国では本亜種により1ヶ月足らずの間に300あったミツバチのコロニーの
うち、50が消滅したという報告があります。また、ミツバチ類の減少は受粉を
彼らに依存している農作物にも影響を与え、そのまま生産性の低下に直結します。
なので食糧生産の観点からも軽視できません。
■生態系に関わる被害
ミツバチ類の他にハエやアブなどの飛翔性昆虫、ガの幼虫やクモなども捕食
することから、これらを餌とする他の昆虫と競合する恐れがあります。特に
餌のみならず営巣環境や活動時期も重複する在来のスズメバチの場合、競合に
より駆逐される可能性もあります。現に韓国では、本亜種の侵入・定着により
都会で広く見られた在来種のケブカスズメバチが激減したと報告されています。
ケブカスズメバチは日本でも北海道に分布するほか、亜種のキイロスズメバチは
本州以南の各地に生息します。もしこのまま日本で定着が進めば、これらの種が
ツマアカスズメバチにとって代わられる危険性も出てきます。
■拡散を防ぐために
このように大きな問題となりかねない本亜種の拡散を防ぐためには、専門の
調査機関による生息調査の他にも、我々PCOからの目撃情報の提供も重要です。
特に夏の終わりから秋にかけてスズメバチの活動がピークに達し、駆除依頼も
多くなります。駆除の際に、もし疑わしいハチが出てきた場合は現物や写真を
現場の市役所や管轄区域の環境省地方環境事務所まで提供していただければと
思います。ただしツマアカスズメバチは特定外来生物に指定されておりますので、
生きたまま運搬することはできません。そのため、現物を持ち込む際は先に殺虫
しておく必要がある点にはご注意くださいね。
引用文献:環境省ホームページ
ツマアカスズメバチが脅威とされているのは、
・生息範囲を急激なスピードで拡大する
・養蜂業・農業への被害(生態系の破壊)をもたらす
・人への被害も大きい(刺害事故の多発)
といった点で、侵入した各地で甚大な損害をもたらすことにあります。
まだ、四国に入ってきたという情報は確認されませんが、生態系を壊す恐れがありますので、早期な根絶が必要です。